『殺意(ストリップショウ)』
再々演対談企画
ゲスト:山﨑健太
1983年生まれ。批評家、ドラマトゥルク。演劇批評誌『紙背』編集長。WEBマガジンartscapeでショートレビューを連載。他に「現代日本演劇のSF的諸相」(『S-Fマガジン』(早川書房)、2014年2月~2017年2月)など。2019年からは演出家・俳優の橋本清とともにy/nとして舞台作品を発表。主な作品に『カミングアウトレッスン』(2020)、東京芸術祭ファーム2022 Farm-Lab Exhibitionでの国際共同制作によるパフォーマンス試作発表『Education (in your language)』(2022)、『フロム高円寺、愛知、ブラジル』(2023)など。
twitter:@yamakenta河井朗
ルサンチカ主宰・演出家
蒼乃まを
青年団所属。初演ではドラマトゥルク・衣装などを担当。再々演では出演。
初演について
蒼乃: シンプルに初演は楽しんでいただけたでしょうか?
山﨑: 面白くなかったものは基本的にレビュー書かないんで無理やり書いたとかではないです(笑)。
河井: よかった~。『殺意(ストリップショウ)』はどこが面白かったですか? というのも、こんなに受け入れてもらえたこと自体に僕はピンときてなくって。
一人芝居っていうものが、えらくエネルギーのいるもので、観客は出演者一人からずっと喋りかけられ続ける。ずっとコミュニケーションが行われる。これが100分だから、それに対して「すごいよー!拍手!」っていう賞賛があったのかなと。山﨑: でも、すごいというよりか、やっぱり面白かったっていう方向の感想のほうが多かったんじゃない?っていう気はしていて。
上演のクオリティ自体が一定以上担保されていたっていうことが絶対大きくて。あとはやっぱり、これを今観るっていうことがピンとくる人が多かったのでは。少なくとも自分はそうだし。
一人芝居はやっぱり難しいよね。特に長くなればなるほどお客さんを惹きつけ続けられない。そう言う意味では戯曲がまずすごい。河井: うん、そうですね。戯曲がすごい。
蒼乃: すごい、戯曲だった。
山﨑: それをカットしてるとはいえ、上演としてちゃんと成り立たせていたっていうことに尽きるんじゃないのって俺は思うんだけどな。
テキストから今を切り取る
蒼乃: 青空文庫の原作っていうかフル尺って読まれてますか?
山﨑: 読んでから上演を観ました。手に入るやつは基本読んでから観ます。
蒼乃: そうなんですね!
元々すごく長い戯曲なので、書かれていることが全部必要でも、2時間~3時間超えてくると「面白いけどしんどい」っていう気持ちになられるのはプラスではないと思って、今回ごっそり切ってるんです。
読んだときと観たときの印象って、どれくらい違いました?山﨑: テキレジで、すごく印象が変わってしまったかというと、そんなことはあんまりないと思っていて。
太平洋戦争の前後の話であることは明確で、そこは抜きには成り立たない戯曲だから、あれくらいの抽象度にしちゃっても大丈夫なんだなと。
戦争関係の具体的なところを切って、ある程度抽象化して短くすると同時に、観られるものにするみたいなことがうまくいっていたと思う。蒼乃: その言ってることの真理みたいなことは、ずっと新しいままだけど、時代は古いから。
山﨑: でもその距離感があるからこそ、受け取れる部分もある。
戯曲が発表されたのが1950年、上演されたのは1970年代に入ってからなので、どこを基準にするかも難しい問題だけど、70年代だったら安保闘争とかの話と結びついて受け取られたのかもしれない。
2023年の今からすると、ここに書かれていることがあまりに「わかる」こと自体が問題だなという印象もある。でもいずれにせよ、上演用のテキストだからこれ。読むより観たほうがわかることは多いなと思った。
河井: ああ、そっか、そうですよね。
山﨑: もちろん丁寧に構造とかを見ていくにはテキストのほうがいいんだけど、伝わってくるものという意味では、やっぱり上演されることによって立ち上がるものが確実にあるなっていうのをすごく思った。
争いを忘れた時代に、どう観るか
河井: 今の社会と、さほど変わんないんじゃない?っていう気持ちがあって『殺意(ストリップショウ)』を上演するべきだと思ったんです。社会への問題意識と、ちゃんと戦争の話をしたいと思って臨みました。
それでも原文には新劇の話が出てきたり、当時の用語とか、どうしても伝わらないなあっていう部分もある。
そもそも戦争っていうか争いに対して興味を持ってもらうことのほうがひとまず重要なのかなと思って、そういう細かい説明的な部分は概ね消してしまったので、社会性がなくなったまま進んじゃうな、緑川美沙の個人的な感情だけで物語がずーっと進んでいっちゃうよな、と。
ただ、それをちゃんと見せること自体が演劇でもあるのかなと思って。当時の社会や背景の説明はなしで、一人の人間が今こういうことを思っている、っていうことをちゃんと上演することが、まあ一つの解決策なのかなっていうふうに考えて上演しましたね。山﨑: いやまあもちろん感情が一番大きな推進力になってることは間違いないんだけど、その感情自体が、その外側にある構造によって引き起こされてるものであることも間違いないから。
過去と地続きの今を想像する
河井: 今言われてる右翼と左翼と、当時の右翼左翼が全然違うから、今の価値観で考えても成立しないなーと思って。何で転向しちゃいけないの?っていうとこから多分始まるとは思うし。何で人を煽っちゃいけないの?みたいなこともつながっちゃうなと思ったんですよね。
山﨑: 上演を観て最初に思い浮かべたのは、あっちの党からこっちの党へみたいに節操なく移動しちゃったりする現在の政治家のことだった。「転向」自体があまりに軽くなってしまってるというか。
河井: そこから上演を観ていく中で、新宿で立っている人たちのことを考えちゃったんですよね。緑川美沙のような人たちが今もやっぱ居ると。商売としてやっていることに対してのリスペクトはもちろんあるけれども、そうしないと生きてもいけない人たちがいるよなーっていうことを。
山﨑: それこそセックスワーカーをめぐる思想みたいなものが二分されている状況が今はある。セックスワークを違法化しようとする人たちもいますが、それはセックスワーカーや女性を守ることにつながらない、そうではなくて安全や人権をきちんと保障する仕組みを作るべきだと活動している人たちもいる。
古い戯曲を上演するときは、そうやって現在につながっていることについて観客が考えられることがやっぱり大事だと思う。
河井: ありがとうございます。
再々演 公演詳細
『殺意(ストリップショウ)』
日時・会場
2023年7月28日(金)〜7月30日(日)
全4回公演 上演時間:約100分
会場:北千住BUoY
・7月28日(金)19:30
・7月29日(土)13:00/18:00
・7月30日(日)13:00
Mail|ressenchka@gmail.com
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