佐々木敦✖️ルサンチカ アフタートーク
ゲスト:佐々木敦
音楽レーベルHEADZ主宰。文学ムック「ことばと」編集長。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。早稲田大学非常勤講師。立教大学兼任講師。著書多数。
演劇論の著作として『小さな演劇の大きさについて』。
@sasakiatsushi
河井朗
ルサンチカ主宰・演出家
蒼乃まを
青年団所属 本作のドラマトゥルク
佐々木敦(以下佐々木): よろしくお願いします。
河井朗(以下河井):まずは簡単に本作品の概要を説明させていただきます。僕の祖母が植物状態になってしまったことをきっかけに、マッチングアプリなどを利用して不特定多数の人にお会いして理想の死に方を聞く『PIPE DREAM』という作品を2019年に作りました。今回は理想の死に方も含めて、理想の生活が東京にあるとすればどういうものかというところから作りはじめたのが本作の経緯になります。
◼ TOKYO PIPE DREAM LANDはどう作られたか
河井:佐々木さんと僕は初めましてですが、前回公演の三好十郎『殺意(ストリップショウ)』の感想 をSNSで書いてくださっていて、もしよければ対談という形でご感想を聞くことができればと思いお招きさせていただきました。ルサンチカのインタビューの作品をどうやって見たらいいかわからないみたいな感想をいただくことがあって。佐々木さんの見方だったりをお聞きできたらなと思ったんです。
佐々木: ルサンチカさんの名前は前から存じ上げていました。前に他の作品も予約してたんですけど、コロナで飛んでしまって、以降なかなか観る機会がなくて。今回、「東京」「ユートピア」がテーマにあったので、もっと都市論、東京論みたいなイメージが観る前にはあったんですけど、実際に見てみると、もっと抽象化されているというか、研究発表のような、エッセイのような、詩のような作品になっているなと思いました。ルサンチカのWEBサイトに載っている俳優さんたちのインタビューと同じセリフが出てきてたので、それが元になっていることは分かる。僕と同じように、インタビューシリーズを初見の人は、これはどうやって作っているんだろうと思う人もいるんじゃないかなと思います。
河井:まずは理想の死に方をインタビューするところから始めています。なぜかというと、それを聞くことでその理想に根差した生活の話を聞くことができるから。そしてそれを全部一回書き起こして、言葉をためていくという作業から始まります。本作では八割が出演者の言葉、残り二割が出演者ではない言葉でできています。今回はインタビューシリーズの新しい試みとして、出演者とコミュニケーションをとって、出演者の本人性について考えるところから始めてみたいなと思って。基本的には出演者とは一対一でインタビューをしていくのですが、今回は四人で喋ってみてどう思うかということをやったりしました。「あなたのユートピアを聞かせてください」と聞くと、結構みんな違う説明をする。でも、「理想の一日はどんなものか」とかを聞いてみると、案外近しいもの、結構似通ったものに収束していったんです。現実の経験に基づいた理想を語る人が多いからだと思うんですけど。
あとは、いくつか質問を重ねていくうちに、同じような回答に辿り着いていくんですよ。例えば御厨さんは、色んな質問をしてみても「ここにいるな」「ここじゃないな」「どこかなのかな」みたいに場所を探しているようなスタンスが見えてくる。井浦さんだったら、東京が好きで田舎には帰りたくない。東京には成功はなかったけど、それでも成功を期待している、とか。そういう要素をインタビューの解答から見つけ出していく。出演者それぞれがキャラクターとしてまず1人で独立できるようにセリフを抽出して行って、コラージュではめ込んでいったっていうような形ですかね。
佐々木: ホームページの俳優さんのインタビューをちょっとだけしか読めなかったのは、なんせ一人ずつがめちゃくちゃ長くて、ちょっと異様な感じがしたんですよね。なんでこんなに長いインタビューが載ってるんだろうって。
佐々木: それは作り方そのものと結びついてるんだなということが、今聞いてわかりました。いろんな演劇があると思うけど、煎じ詰めれば演劇とはテクストとその上演ですよね。まずテクストを作るっていうことだけでも相当時間も手間もかかっている。そこで訊きたいなと思ったのは、上演は、一人一人が順番に出てきて、インタビューされたことをただ喋っているというわけじゃないじゃないですか。自分が思ったこととか自分の経験に即したことを喋ったインタビューでの言葉を、これから上演で何回もセリフとして喋るわけですよね。それが演劇だから。それを80分の作品に仕上げるにあたっては、いろいろ編集してるわけですよね。順番を入れ替えたり、重ね合わせたりとかしていって、それで本作ができていると思うんですけど、指針というか、構成みたいなものはどうやって決めてるんですか?
河井: それが一番苦手な質問で。まず僕、物書きじゃないから戯曲とか物語が書けなくて。まぁ、インタビューの言葉をコラージュをするってこと自体が戯曲を書くということとも近いかなとは思うんですけど。考え方としては、既成戯曲もこういったテキストたちの集積も、全部一旦「記録である」っていうスタンスで。残された言葉であるっていうスタンス。その場で聞いたとしても、そのとき言ってたことと3日後に言ってることは違うかもしれないけど、ただまず記録であると。
佐々木:そのときのドキュメントってことですね。
◼ 感覚的にリズムを作っていく
河井:その言葉をどうやったら自身が批評できるか、あるいは言葉の意味に則ってしまうのか。それは 出演者それぞれによって変わるから一概にどうとは言えないんですけど、まず記録として扱う。 そこからなんとなく、感覚的に作っていく。
佐々木:感覚的に作るのだって、元々膨大な情報があるわけだから、これの次にどれが来るとかっていうのは、何段階かの作業をしていかないとひと繋がりになっていかないですよね。
蒼乃:基本的に「感覚で組んでいる」というのがベースではあるのですが、もう少し説明するとするならば「言葉遊びをしている」と言えるのかなとは思います。例えば、出演者が漫画の『花より団子』のセリフを引用するシーンがあります。この引用はインタビューを行ったときに実際に語られた言葉に入っていたんですけど。別の出演者が東京で好きな場所はありますか? という説明に対して、「浅草、墨田区、台東 区、......」という解答をしていて、この話は舞台上で喋ってほしいなと思っていました。そうしたら、浅草と花団のキャラクター名「道明寺司」って韻踏めるじゃんってなったんですよ。だから、花団のセリフを話してくれた出演者の話と浅草の話をキャラクターの名前で繋いだって感じです。そういう感じで、いくつか塊ができていく。
河井:洒落で作ってるところも多くて。1人が「理想」を話す、別の人が「現実の1日」を話すというのを接続させる時に、台詞の並びで「理想」と「今日は」がくっついて「理想郷は」という言葉に聞こえるとか。そうやって言葉遊びをばーってやっていって。
佐々木:なるほど。観ている側からすると、それがリズムを生んでるところがある。気づく・気づかないは観客それぞれとしても、いろいろ細かい仕掛けがあって、そういう手法で一本の作品を編成していってるんですね。
蒼乃:誰かにとっての東京が、別の人のユートピアの解答として出てきたものとすごく近かったりとか があって。
観てるとユートピアの話してるのかなっていうふうに仕立てられてはいるんですけど、ホームペー ジのインタビューを見てもらうと、実はユートピアの話じゃなくって現実の話してたんだなとかっていう、そういう「ずれの遊び」も込み込みで組んでいるところはあります。
◼色々なことをバラバラにしないために
佐々木:色々なテーマについて長時間のインタビューを行なって、そもそも情報量が過大になっているところで、それを一本作品にしようとしたときに、元々「東京」というテーマとか、「ユートピア」というテーマがあるとしても、やっぱりそれぞれの人は、別にそのテーマに収斂させるために喋っているわけじゃないから、ふと違う話題が出てきたり、話が逸れていくこともあって、それが面白かったりする。 かといって完全にバラバラになってしまったら一本の作品として持ちこたえられないから、そこに演出の重要さが出てくるんだと思うんです。俳優さん自身が喋ったことがセリフになっていて、それを稽古していくときに、俳優の中で何が起きているのかに興味があります。
河井:俳優に伝えていたこととしては、まずは記録として扱ってくださいということと、今回『TOKYO PIPE DREAM LAND』なので、テーマパーク性みたいなことを扱いたいなとは思って。 そもそもインタビューの時点では伝えようと思って喋っていない言葉もたくさんあって、それをセリフとして伝えるためには、出力を変えなくちゃいけない。サービスする、プレゼンテーションする、っていう作業をメインにしてくださいというふうにお願いしていて。観客に伝えるっていうスタンスを常に取り続けてくださいと。
◼なんで今東京だったのか
佐々木:笑いを呼ぶような台詞や展開がたくさんあるにも関わらず、全体のトーンとしては、やっぱり悲しみというか、絶望みたいなものを僕は感じました。お祖母様が植物状態になったことが出発点にあるからかもしれないけれど、やっぱり僕は観ていて、そこまで俳優の皆さんは年取ってるわけでもないのに、やたらと死ぬ時の話をするから、これぐらいの年齢の人が死ぬときのことを考えてしまうのが今の東京ってことなのかなと思ってしまった。 東京という都市、場所が、ぐるっと回って見えてくる感じがしました。
河井:東京って住んでる人の大体半分が東京出身の人じゃない。今は東京に住んでいて田舎には帰りたくないだとか、別に東京には仕事しにきてるだけですとかになっていったときに、理想の死に方は僕的にはやっぱりマストになっていて。「理想」だから、死に方を聞いてもそんなに暗い話は出てこないんですよ。「死ぬ」っていう言葉そのものは確かに暗さを持ってはいるんですけど。それをハッピーな作品にしたつもりではあります。
佐々木:でも、なんで今東京だったんですか。今までいろんなテーマをやってきて、ここへきて東京っていうのは、コロナと関係あったりするんですか。
蒼乃:スタッズターケルを原案として、これまで何作かインタビューの作品を作ってきて。
<スタッズターケルとは>
アメリカ、シカゴで活躍した歴史家、俳優、放送作家。多層な階層の人々にインタビューを行い 記録していくオーラルヒストリーを用いた著書『良い戦争』ではノンフィクションの部でピュー リッツァー賞を受賞している。ほかにも『死について!』『大恐慌』などの作品がある。
その中に『アメリカンドリーム』という作品があるんです。それを日本でやるならと考えて、東京って夢がある街だなとか、夢を追っていく場所だなっていうのがぼんやり感覚としてあったから。アメリカンドリームを原案に、東京で夢の話ができないかと考えました。
◼今後の展望
佐々木:最後にもう一つ聞きたいことがあって。今まで既存戯曲の上演とインタビューシリーズを並行してやってきたんですよね?
河井:ここ3年はインタビューが多いんですけど、大学生の時はずっと既成戯曲やってました。
佐々木:今後、既成戯曲とインタビューがミックスしていくということは?
河井:5年くらい前にソーントン・ワイルダーの『わが町』やりたいなと思って。インタビューが必要だってなって、こういう作品に繋がっているというのもあります。
佐々木:今回の作品も『わが町』みたいですよね。
河井:そうですね。『殺意 ストリップショウ』の時も、インタビューされた人として、あの女性を上演すれば、もかしたらいけるんじゃないかなとか思って。 今後も織り交ぜれる戯曲を選んで作品ができるといいなっていうふうには思ってます。
佐々木:そういう形でいろいろ混じっていくのも観たいなと思います。
河井:ありがとうございます。お時間ということで本日のアフタートークを終わらせていただきたいと思います。本日のトークゲストは佐々木敦さんでした。ありがとうございました。
日時・会場
2023年11月13日(月)〜11月19日(日)全6回 上演時間約85分
アトリエ春風舎
所在地:〒173-0036 東京都板橋区向原2-22-17すぺいすしょう向原B1
アクセス:東京メトロ有楽町線・副都心線/西武有楽町線「小竹向原駅」下車 4番出口より徒歩4分
・11月13日(月) 19:30★
・11月14日(火) 19:30
・11月15日(水) 休演日
・11月16日(木) 19:30★
・11月17日(金) 14:00
・11月18日(土) 16:00
・11月19日(日) 14:00
★:終演後アフタートークあり
チケット料金(当日精算)
一般:予約3,000円/当日3,500円
25歳以下:予約2,500円/当日3,000円
Mail|ressenchka@gmail.com
2019 ©︎ Ressenchka